豆腐根性

はたらくくるま @tfkjay

刈り上げ

    尊敬できる同性の先輩が欲しかった。(一般職と総合職を区別して話すのもイヤなんだけど、)一般職の先輩方はいつも可愛がってくださるし好きなんだけど、みんな親の一回り下くらいの年齢だ。総合職で唯一の先輩が理想のそれではなかったことに、いつまでも腹を立てている。傍から見たらくだらないことで何を騒いどんねんと思うだろう。わたしもそう思う。そんなことに心をとらわれて数年になる。

    同部署の彼女は、「くるまの面倒を見るために使いなさい」と会社から貰った手当6万円をネコババするような人間だった。見かねた上司に言及されると、「義務では無いですよね?」と言い放ったと聞いた。マジもんのあたおかで笑ってしまった。あんなの勝てないよ。昨年末、彼女の別支店への異動が決まった。今まで仕事での関わりがなかったのに、業務引継ぎが始まって毎日接するようになると、すぐに苛立ちゲージがパンパンになった。送別会諸々のお金を出すのが嫌でゴネたら、「大人なんだから最後は気持ちよく送り出そうね」と上司になだめられた。大人なんだからもっと上手に説得しろや。部署からのプレゼント代はわたし抜きで計算して買った。舐めるな、こっちはやる時はやる人間やぞ。あんだけ目の前でゴネたのに、よくわたしに買いに行かせたな。最後の出社の日もヘラヘラしながら「よいお年を~」とだけ言って別れた。一昨日、引継ぎできなかった業務について確認のメッセージをしぶしぶ送ると、質問文に対して的を得ない回答が一言だけ返ってきた。なんだコイツ、とモニターにメンチを切ったが、これまでのわたしの態度がめちゃくちゃ悪かったので仕方ない。願わくば、二度と同じ支店になりたくない。

   いつもおだやかな人間として過ごしている(つもり)。何か腹が立つ出来事があっても、こちらに少しでも非がある場合は、自分の未熟さを恥じて決して感情的にならないよう努めている。協調性を重んじ、争いは好まず、平和を愛する人間だ。しかし、相手が100%悪いと判断した途端、死ぬほど腹が立って情緒が暴れまわってしまう。ついでに他の案件で溜め込んだ苛立ちも一緒にぶつけるので、必要以上に感情的になる。物にあたって発散するタイプじゃないけど、ストレスがピークになった時は終業後に更衣室でわんわん泣いて、ロッカーを殴ってみたりした。心から殴ったわけではない。物にあたることで怒りを発散できるのか試してみたかった。普段は、怒りの大きさを示すため、実際に殴るわけないのに「殴ってやろうかと思った」と口で言う人間をアホだと思っている。ロッカーを凹ますくらいのイメージで拳をぶつけたけど、へっぽこパンチでは到底かなわず。握り拳のぼこぼこした部分が赤くなって、皮が剥けた。帰りに自転車をこぐと、冷たい風がしみて痛かった。もう二度と殴らない。

 

    先週、生まれて初めて髪を刈り上げた。舐めとんのか?舐めんなよ!という威嚇を目的とした刈り上げである。新しい業務を担当するにあたり、気合いを入れるためでもある。メロスには仕事が分からぬ。けれども舐められに対しては、人一倍敏感であった……。初めてなので、とりあえずサイドを少しだけ刈ってもらったものの、翌朝には物足りなさが確信に変わった。もっとイケる。この調子だと、まちゃまちゃみたいになっちゃうかもしれないので、誰か止めてほしい。