豆腐根性

はたらくくるま @tfkjay

因縁の青チャート

    朝夜は涼しくなり、セミはいなくなり、代わりにトンボが飛びはじめた。今月28歳になった。年々、季節の移ろいに敏感になっている。ついタンクトップのまま寝てしまい、夜中に体の冷えで目が覚める。急いで毛布をたぐり寄せてくるまるが、冷感ひんやり毛布なのであたたかくない。季節の変わり目はこうやって風邪を引く。

    この頃、休日は公民館の学習スペースで勉強をしている。利用者の大半は高校生と思われる。わたしも大学受験期に1回だけ利用したことがある。受験生にまじって、電卓をパチパチたたく28歳。前の席に座る少年のカバンから、数研出版のチャート式がのぞいていた。

    チャート式は高校数学の参考書で、難易度別で色が分かれている(赤>青>黄>白)。高校時代、数学で挫折するきっかけになった青チャート。公立進学校(笑)であったために、不幸にも自分のレベルに合っていない青を手にしてしまった。

    中学校では特に苦労しなかったのに、高校数学で最初からつまずき、数Ⅱ・Bで完全に挫折した。宿題で青チャートが出される。一生懸命解こうとするものの、序盤でつまずく。答えと解説を見ても理解できない。かといって、答えを丸写しで提出しても意味が無いし、先生にもすぐバレる。解けない。解けないからやりたくない。でも宿題はやらなければならない……。そこで真面目なわたしは、真面目さゆえに学校を休んだ。宿題をしなくていい合法的な理由を手に入れた。アホだ。「適当に手を抜いてうまくやれよ」と当時のわたしに言ってやりたい。おかげで出席日数が足りなくなり、期末に補習を受けてなんとか進級した。三者面談のために、何度か親に学校まで来てもらった。前後の文脈ははっきり覚えていないが、化学の先生から「お前がいなくても世界は回り続ける」と言われて安心した記憶がある。言葉だけをみると酷い言い方に聞こえなくもないが、当時のわたしは「気負わず気楽にやればいい」というメッセージだと受け取った。その帰りの車の中で、父と一緒に東日本大震災発生の速報と津波の映像を見た。

    クラスが文系理系に分かれる2年生への進級と同時に、数学を捨てる決心をした。つまり、国公立大学は選択肢から消えた。2年生で私立文系一本に絞る生徒は少数で劣等感もあったが、残りの2年間は気楽に過ごせた。大学もわりと楽しい4年間を過ごせたので、よかったと思う。

    お腹がすいたので公民館を出た。駐輪場に並ぶ自転車の中に、母校の駐輪ステッカーを見つける。「勉強頑張れよ~」と心の中でゆるいエールを送った。喫茶店ブレンドコーヒーとガトーショコラを注文。フォークに刺した最後のひとくちで、お皿に残った生クリームを微塵も残さぬようさらえる。カレーやシチューでも同じことをしている。

    そこは1年ほど通ってる喫茶店だが、初めて店主さんに話しかけてみた。最近、ひとりでバーに行くようになり、お店の人と話す楽しさを知った。そういう場所を少しずつ増やしていきたい。

 

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