豆腐根性

はたらくくるま @tfkjay

母の話

わたしの母の話をする。

母はいわゆるオタクかつ腐女子だ。わたしが幼い頃は、母が見ているアニメをわけもわからず一緒に見ていた。小学2年生の時、国語の宿題の教科書音読を母に聴いてもらおうとしたら「今録画したアニメを見ている途中だから台所で一人で読んでて。あとで本読みカードにサインしてあげるから。」と断られたことが何度かある。同じように九九カードの読み上げも断られた。リアルタイム視聴ならまだしも、一時停止が可能な録画にすらかわいい娘のお願いは勝てなかったのだ。当時のわたしは真面目ちゃんだったので、母がサボりを推奨するともとれる言葉をかけてわたしを試しているのだと勘違いし、そんな罠に引っかかるまいと台所に座って小声でしっかり音読した。ちなみにその間、母はカウボーイビバップを見ていた。

そして忘れもしない小4の夏。その日は朝早くから父と一緒に祖父母のお墓掃除に出かける予定があった。父にお線香を取ってくるよう頼まれて、仏壇の収納の中を探していると見覚えのある茶封筒がそこにあった。たまにポストに入っていた母宛ての薄い茶封筒。それがいくつも重なって入っていた。純粋な興味で封筒の中を覗くと、某少年漫画の男性キャラが切なげな表情を浮かべながら絡み合った表紙が見えた。そっとしまった。後日、ネットで調べて初めて二次創作・BLというものがあること、そして母がいわゆる腐女子であることを知った。母は仏壇に同人誌を隠していたのだ。しかも父方の祖父母の仏壇に。罰が当たりそうだ。それからしばらくして、母は同人誌の隠し場所を定期的に変えるようにしていたが、その度に探し出してこっそり読んでいた。わたしもBL二次創作にはまったのだ。さすがにR指定がかかったものを堂々と見せることはなかったが、ギャグオンリーの分厚いアンソロジー本を読ませてくれたこともあった。

母はいまだに現役で、今は東京喰種にお熱らしい。掲載誌の懸賞で描き下ろしイラストのトランプを当てた時は嬉しそうにLINEで報告してくれた。その前は鋼の錬金術師にドハマりして、キンブリーさんのぬいぐるみ(非公式)をリビングに飾っている。壁には刀語のポスターと蟲師のカレンダー(ともにネットオークションで落札)。父はとても寛容なので何も言わない。

母の英才教育を受けて育ったわりに、わたしは薄っぺらいオタクだ。オタクを自称するのも畏れ多いので、ちょっと人よりも漫画とアニメが好きでたまに脳内で男キャラ同士をこねくりまわす程度の人間と言いたい。わたしの中のオタク像は母で、わたしは母のようなオタクになりたかった。でもなろうと思ってなる・なれるものでもないので、これからも薄っぺらいままなのだろう。

あ、最初のエピソードだけ読むととんでもない親に見えるけれど、とてもよい母でわたしは大好きです。