豆腐根性

はたらくくるま @tfkjay

麦茶

 外を歩くだけで、マスクの下が汗でびちゃびちゃになる。マスクを外したって汗は止まらない。冷房のかかった室内から出ることが億劫になるほどの暑さ。冷蔵庫のドアポケットには、常に麦茶が準備してある。ペットボトルのお茶ではなく、お茶パックから作ったお茶だ。1リットルのポットに、お湯だしした麦茶が入っている。こいつが、10回に1回はなんとも言えない味がするのだ。お湯の量の加減でやや濃いめに仕上がっているのか、飲んだ後も喉に残る感じがある。飲めないほどマズいわけではないが、100%の状態ではないのはわかる。

 

 麦茶って、お弁当の卵焼きみたいだ。アキちゃん家の卵焼きはうちより甘かったし、エリちゃん家はしょっぱかった。平日は学校給食だが、部活の休日練習があるときは、いろんな友達とお弁当に入った卵焼きを交換していた。いま振り返ると、当時は卵焼きとだし巻き卵の区別がついていなかった。

 

 そして、マコちゃん家の麦茶は、とても失礼だが砂みたいな味がした。砂をがっつり食べたことはないので正確にそれだと断言できないが、とにかく砂の風味、砂を想起させるテイストだった。彼女がヤカンから直接コップに麦茶を注いでいたような記憶があるので、あれはヤカンの味だったのかもしれない。変な味がすると思ったが、あんまり言わないほうがいいことだと判断して何も言わずに飲んだ。正しい判断だったとあの時の自分を褒めてやりたい。20年も前のことだけど、未だに忘れられないほど衝撃だった。

 

 高校生になってからは、友達の実家でご飯をごちそうになる機会がすっかりなくなった。仲のいい友人たちも自分自身も、家に友達を招いたり泊めたりするようなタイプじゃなかったし、お互いの家が遠かった。もう十数年、よその家のご飯を経験していない。よその家の味付けは、うまいまずいの軸じゃない部分で楽しめるところが好きだ。ひょいひょい人と会うことが難しい日々が長らく続いているが、ひさしぶりに友達の家のご飯を食べたくなった。