豆腐根性

はたらくくるま @tfkjay

M-1と和解せよ

 今年のM-1グランプリに和牛は出ない。去年の大会が終わった後に、これで卒業すると明言していたので驚きはなかったが、彼らが優勝するM-1グランプリを観たかった。個人的には、とろサーモンが優勝した2017年大会で彼らが獲るべきだったと、いまだにネチネチ引きずっている。なぜあんなにおもしろいのに優勝できないのか。考え続ける中で、審査員を憎み、現場の客を憎んできた。「さすがにそれはお門違いなのでは…」と思い直して、大会自体を憎むようにしたわたしのもとに、図書館で予約待ちしていたナイツ・塙さんの「言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか」が届いた。ちょうど、和牛の欠場を確認した頃だった。これは神の思し召しか。何かを憎むことはじわじわと体力を消耗するし、心身にわるい。4年間抱えてきた不満を解消してほしくて、一気に読んだ。

 

 和解。争いをやめ、仲直りすること。わたしはM-1と和解した。さすがプロの芸人であり、かつてM-1王者を目指した漫才師の分析だ。読み進めるごとに、絡まりに絡まった不満がひとつひとつほどけた。自分が最高におもしろいと思う漫才師が優勝できないことに腹を立て勝手に恨まれて、勝手に和解され、M-1もいい迷惑だろう。はじめは、一番おもしろいから一番になってほしいという純粋な思いだった。優勝コンビの後ろで能面みたいな顔をした水田さんと感情を隠すように柔らかい表情で立つ川西さんを見て、どうか最高の漫才をつくる彼らの努力が報われてほしいという願望が膨らんだ。前回大会をもう一度見た。トロフィーを受け取るミルクボーイの後ろで、水田さんは笑顔で拍手をしている。和牛の凄さは十分知られた。わたしの気持ちは成仏した。

 

 あと3ヶ月ほどで決勝戦。まだ世に知られていない面白い漫才でたくさん笑いたい。